よく分からない注
パール『入門統計的因果推論』でDAG上のノードの従属性について説明している箇所に,「$Y$が$X$の影響を受けるのに,$X$と$Y$が独立になる」という意味の注があって,しばらく意味が分からないまま放置していた.
別の文献で忠実性についての説明を読んでいるうちに,これは
DAG上では依存関係があるように見えるし,構造的因果モデルもそのように定義しているけれど,$X$と$Y$が独立になるという,やや特殊な関数例が存在すること
について言及しているのだと思うに至った. 例のごとく,何かに記録しても,どこに書いたかすぐ忘れるのでここにmemoを残しておきます.
内容
注の内容は以下の通りである
$X, U_Y$が正常なコインで,$X=U_Y$が$Y=1$と同値であるとき,$P(Y=1 \mid X=1)=P(Y=1)$等が成立し,$X$と$Y$が独立になる場合がある. でも特殊なケースなのでそれほど気にしなく良い
とまあ,こんな感じである. これだけだと訳が分からないので,著者が言いたいであろうことを補足してみる
予想
$X, U_Y$が正常なコインで
の部分は,まあ $$ X \sim Bern(0.5), U_Y \sim Bern(0.5) $$ くらいの意味であろう.
構造的因果モデルは $$X=U_X $$ $$Y=f_y(X, U_Y) $$ でDAGは
$$X \to Y$$
と仮定する.外生変数同士は独立なので$X \perp U_Y$である. さて$Y$の定義であるが,「$X=U_Y$が$Y=1$」と同値とあるので,これを
もし$(X=1,U_Y=1)$か$(X=0,U_Y=0)$なら,そのとき$Y=1$
もし$(X=1 U_Y=0)$か$(X=0,U_Y=1)$なら,そのとき$Y=0$
と解釈する.つまりこれが構造的因果モデルのモジュール$f_y$の陽表的表現である. このXOR型関数は,この種の例としては定番なのかもしれない. 別の本で見たような気がしないでもない.
ともあれ,条件付き確率は $$p(Y=1 \mid X=1)=p(Y=1, X=1)/P(X=1)=0.25/0.5=0.5=p(Y=1)$$ $$p(Y=0 \mid X=1)=p(Y=0, X=1)/P(X=1)=0.25/0.5=0.5=p(Y=0)$$ $$p(Y=1 \mid X=0)=p(Y=1, X=0)/P(X=0)=0.25/0.5=0.5=p(Y=1)$$ $$p(Y=0 \mid X=0)=p(Y=0, X=0)/P(X=0)=0.25/0.5=0.5=p(Y=0)$$
となるから,独立性の定義を満たし,$X \perp Y$である. 構造的因果モデルの定義より,「YはXの影響を受けるがXとYは独立」が確かに成立する
局所マルコフ性と分解定理との関係
上記の例は「同時確率分布がグラフに忠実でないこと」の一例となっている. このような特殊な分布の存在が局所マルコフ性と分解定理に悪さをするのではと気になったが,問題はないようだ.
そもそも局所マルコフ性は親で条件付けた場合の非子孫との独立性を保障するものであり,忠実性とは関係なく成立する. そして分解定理の成立に必要な重要な仮定は,外生変数同士の独立性であり, 忠実性と「トポロジカル順序→チェーンルール→親による縮約→分解定理」の証明の流れとは関係が無い.
結局,分解定理が成り立たないDAGを不完全だと見なせば,分解定理をDAGの性質として定義する方針でもいけるのでは, と考え始めている(そもそもベイジアンネットワークは使いたくないので,構造的因果モデル+DAGから分解定理を導くのが一番自分の嗜好にあっている).