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数理モデル本の続編を書きました

はじめに

『その問題,やっぱり数理モデルが解決します』をベレ出版さんから刊行しました.以下,その内容をざっと紹介します.

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本書は次の4つのパートから構成されます.

  • 1~3章 数式の理解のしかた
  • 4~8章 複占モデルを中心としたゲーム理論
  • 9~12章 統計的推測と回帰モデル
  • 13~14章 広告の微分方程式モデル

はじめから順番通りに読んでもいいし,興味のあるパートから読んでも構いません.

前作『その問題,数理モデルが解決します』と同様に,登場人物達の対話を通して数理モデルを紹介します.世界観は共通ですが,内容は独立しているので,今作から読み始めていただいても問題ありません.数学の難易度は前作よりも少し易しくなるよう心がけました.

対象読者

本書の読者として以下のような方を想定しています.

  • 数学って何の役に立つの?と考えている中高生
  • 数理モデル*1に興味のある大学生
  • 統計学を使うけど,仕組みがよく分からないという研究者
  • データ分析について勉強してみようかなと考えている社会人

特徴

「数理」モデルの理解はなかなか困難です.そこでなるべく分かりやすく,かつ,数式はちゃんと使いつつ数理モデルの使い方や作り方を紹介するために,この本を書きました.おそらく,キャッチーな表紙からは想像できないほど本書にはたくさんの数式が登場します.しかしこれにはちゃんとした理由があります. 1つの計算過程を省略せずに書くためには,必然的にたくさんの式が必要です.逆に言うと,途中の変形ステップを省略せずに式がたくさん書いてある本ほど,実は簡単に読めるのです.

多くの初学者は,数式間で省略されたステップが理解できずに挫折します.ですので本書は,(前作同様に)可能な限り式変形を丁寧に書くよう心がけました*2

各章のタイトル・難易度・トピック

タイトル 難易度 トピック
第1 章 しっくりこない数式の読み方とは? 総和記号、添え字の読み方、平均値
第2 章 確率密度関数ってなに? 定義の読み方、グラフの描き方、パラメータの役割
第3 章 確率と積分の関係とは? 正規分布、測定誤差、確率密度関数のつくり方
第4 章 モデルってなに? ☆☆ 競争市場、需要量、代替財、均衡価格、独占モデル
第5 章 競争で損をしない戦略とは? ☆☆ 複占モデル、ゲーム理論ナッシュ均衡
第6 章 自分でモデルをつくる方法 モデルのつくり方、モデルの一般化、モデルで自由に遊ぶ
第7 章 先手が有利な条件とは? ☆☆ 後ろ向き帰納法、展開形ゲーム、情報集合
第8 章 競争に負けない価格設定とは? ☆☆ 代替性、モデルのバリエーション、検証
第9 章 売り上げを予測するには? ☆☆ 回帰分析、最小2乗法、微分偏微分
第10 章 確率モデルでデータを分析するには? ☆☆☆ 確率変数、OLS推定量正規分布の再生性
第11 章 仮説検定ってどうやるの? ☆☆☆ 定量の確率分布、t分布、解釈の注意点
第12 章 観測できない要因の影響を予想するには? ☆☆ 欠落変数バイアス、期待値、不偏推定量、固定効果
第13 章 アプリの利用者数を予測するには? ☆☆ 微分方程式、置換積分法、変数分離形
第14 章 広告で販売数を増やすには? ☆☆☆ 1階線形微分方程式積分因子

メッセージ

私は大学院に入るまでは,「数学は自分の人生に無用だ」と考えていました. しかし今では数理モデルを勉強したり数理モデルを使うことは,人生に欠かせない楽しみの一つです. 本書をきっかけに,数理モデル(数学)っておもしろいかも,と思っていただけたら望外の喜びです.

以下,各章の概要です.ちょっと長いので気になる人だけどうぞ.

各章の内容

第1 章 しっくりこない数式の読み方とは?

難易度☆ 総和記号、添え字の読み方、平均値

ときどき,$\sum$が苦手だ,という学生さんの声をよく聞きます. $$ \sum_{i=1}^{n}x_i=x_1+x_2 + \cdots +x_n $$ は分かるんだけど, $$ \sum_{i=1}^{n}a=an $$ は,なんかしっくりこない,と.

第1章ではこのような総和記号の意味からはじめて,《分かったような分からないようなしっくりこない数式》に出会ったときに,どうやってその式を理解するのか,その一般的な方法を解説します.

第2 章 確率密度関数ってなに?

難易度☆ 定義の読み方、グラフの描き方、パラメータの役割

統計学や確率論のテキストを開いたところ,

次の2つの条件を満たす関数$f: R \to R$を確率密度関数という.

  1. 任意の$x \in R$について$f(x)\ge 0$
  2. $\int_{-\infty}^{\infty} f(x)dx=1$

といった定義がいきなり出てきて,「ちょっとなに言ってるかわからない」と思ったことはありませんか?

2章では確率密度関数を例に,抽象的な定義を理解する方法を解説します.

統計や数学を学ぶ上で《自分で具体例をつくる》ことはとても大切です. ここでは式を単純化したり,コンピュータを使ってグラフを描いたり,条件を変えて比較したりさまざまな試行錯誤 を通して抽象的概念を理解する方法を学びます.

第3 章 確率と積分の関係とは?

難易度☆ 正規分布、測定誤差、確率密度関数のつくり方

学生の頃,確率密度関数を計算してたら「4.023」や「5.251」のように1よりも大きな値が出てくるので,「積分したら1になる関数なのに,なんでこんな値が出てくんねん」と頭をひねったことがありました.よく考えれば別に不思議なことではないのですが,一見奇妙に思える理由を説明しつつ,積分の直感的な意味や確率密度関数を解説します.

積分と確率の一致が納得できると,確率論の世界が目の前にぱっと広がります.

第4 章 モデルってなに?

難易度☆☆ 競争市場、需要量、代替財、均衡価格、独占モデル

モデルとはなにか,という基本的な話を競争市場を例に説明しました.途中までは数式なしで,最後にほんの少し数式(独占モデル)が出てきます.数式は現実的な『意味』が与えられると,世界を表現する豊かな言葉に変化します.昔,師匠から「数理モデルの勉強を始めてから,無機質な数式が急に色めきたって見えた.まるで白黒の世界からカラーの世界に変わったような気がした」という話を聞かせてもらったことがあります*3.そんな瞬間を読者にも感じてほしいなと思ってこの章を書きました.

第5 章 競争で損をしない戦略とは?

難易度☆☆ 複占モデル、ゲーム理論ナッシュ均衡

『経済学のためのゲーム理論入門』(ギボンズ)でクールノーの複占モデルを初めて知ったとき,「このモデル,すごい!完璧や!」と感動しました.一般に,モデルのよさは $$ モデルのよさ=\frac{インプリケーションの豊かさ}{モデルの複雑さ} $$ で評価できます.複雑すぎるのもよくないし,かといって単純すぎてインプリケーションが自明なモデルもよくありません.単純さとインプリケーションの豊かさを両立させることは困難ですが,クールノー複占モデルは見事なバランスで,両者を実現しています*4.ここではそんなゲーム理論の名作,クールノー複占を例にシンプルなモデルの作りかたを解説します.

第6 章 自分でモデルをつくる方法

難易度☆ モデルのつくり方、モデルの一般化、モデルで自由に遊ぶ

モデルを拡張したり一般化する方法を実例をもとに解説しています.このあたりの話は既存のテキストだと「できて当たり前」の操作として扱われることが多いのですが,自分でモデルをつくるときには,この計算のプロセスを詳しく示す必要があるなと思ってこの章を書きました. 花京院くん曰く,モデルをつくることは「カツカレー」を作ることに似ているそうです.はたしてその意味は?

第7 章 先手が有利な条件とは?

難易度☆☆ 後ろ向き帰納法、展開形ゲーム、情報集合

モデルの拡張やヴァリエーションを複占モデルの展開形で説明します. 4章からスタートして,5,6,7,8章と独占・複占モデルを主題とする変奏曲が続きます. 新しいキャラクターも登場します.

第8 章 競争に負けない価格設定とは?

難易度☆☆ 代替性、モデルのバリエーション、検証

ひきつづきモデルの拡張やヴァリエーションを複占モデルで説明します. ここでは戦略集合が『生産量』から『価格』に変わります.やはりコアになっているのは独占モデルで,ここが最後のバリエーションです. データによるモデルの検証についても少し考えながら,次章の統計学の導入へと続きます.

第9 章 売り上げを予測するには?

難易度☆☆ 回帰分析、最小2乗法、微分偏微分

もっとも基本的なデータ分析法のひとつである回帰分析とその原理にあたるOLSを解説します. 微分がよく分からない,忘れてしまったという人はこの章で確認してください.

第10 章 確率モデルでデータを分析するには?

難易度☆☆☆ 確率変数、OLS推定量正規分布の再生性

ここでは確率変数を明示的に導入して,誤差項の分布から推定量の分布を導出します. 回帰分析を確率モデルとして構成することで,係数の検定(次章)が可能となります

第11 章 仮説検定ってどうやるの?

難易度☆☆☆ 推定量の確率分布、t分布、解釈の注意点

回帰係数の検定を解説します. OLSは分かるけれど,係数の検定はよくわからない,という読者に向けて書きました. 確率変数同士を合成して新たに確率変数をつくる,という流れがイメージできると推定量の分布がなぜ正規分布やt分布にしたがうのか分かります.

第12 章 観測できない要因の影響を予想するには?

難易度☆☆ 欠落変数バイアス、期待値、不偏推定量、固定効果

欠落変数バイアスについて解説します.単にそういうバイアスがあるんだよって話ではなく,陽表的な関数として導出する過程を示しています. 本書では触れませんでしたが因果推論や条件付き期待値回帰を勉強する場合にバイアスの理解が役に立ちます.

第13 章 アプリの利用者数を予測するには?

難易度☆☆ 微分方程式、置換積分法、変数分離形

微分方程式モデルの基礎を説明します.積分の計算方法を知らない,あるいは習ったけど忘れてしまった,という方はこの章で復習してください. 置換積分の計算は,確率変数の計算にも役立つので,ぜひ紙に式を書いて納得してください. 積分の計算は面倒ですが,この計算によって確率論の理解がぐっと深まります.

第14 章 広告で販売数を増やすには?

難易度☆☆☆ 1階線形微分方程式積分因子

最後は広告の効果を分析する微分方程式モデルの紹介です.Vidal & Wolfe(1957)の古典的な論文をベースに,新キャラクターのヒスイが発展的なモデルを提案します. 異なる広告タイプを比較するために積分を利用するあたりが面白いモデルだと思います.13、14章では積分が大活躍します.


最後まで読んでいただき,どうもありがとうございました.

*1:数理モデルは,数学を使って現象を表現・説明・予測する方法の総称であり,観察した現象から本質を見抜く洞察やデータを分析するための指針(理論)を与えてくれます.現象が成立するメカニズムを数理モデルで特定できれば,不確実な未来を予測できます.コロナウィルスの感染症対策でSIRモデルおよびその拡張的数理モデルは,しかじかの仮定の下で感染者数はこうなると明確な予想を導きました.

*2:逆にいえば,既に数学を使った議論に慣れている中級者以上の読者には,少しもの足りないかも知れません.もう少し難易度が高くてもOKかつ,ベイズ統計モデルに関心のある方は,『社会科学者のためのベイズ統計モデリング』をご覧ください.共著者の清水さんによる紹介記事はこちらです

*3:私は師匠のつくった数理モデルの論文を読んだとき,最初は意味が分からなかったのですが,計算を繰り返すうちに小さな世界で人が動いている様子を想像できました.いえ,酔っ払ってヘンなモノを見たわけではありません

*4:ゲーム論のモデルにはたくさんの名作がありますが,クールノー複占は個人的にはベスト3に入るくらい好きなモデルです.ちなみに,この章を書くためにクールノー複占をゲーム理論で最初に表現した人が誰かを調べてみました(クールノーはゲーム論が生まれるずっと前に複占モデルを定式化していました).どうやらギボンズよりもフリードマンの方が早かったようです